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暮ら巣をつくる

自分の巣をつくっていました。
いや正しくは、自分の巣を塗っていました。

鎌倉から八ヶ岳山麓に移動し、新たな拠点をつくることは、この数年に亘るわが家の大きなプロジェクトでした。
コツコツと家を自分で建てた(建てている)方たちに、こちらで出会いました。
そのような家づくりにあこがれはあるけれど、わたしたちには現実的に難しく、それでも自分たちでできることはやろうと選んだのが「塗ること」だったのです。
外壁、内壁、床、建具、外構の木柵、駐車場の木製電柱…塗装するところは、できるだけ自分たちでやりました。
塗料もペンキ、オイル、珪藻土とさまざまに、この半年間はあらゆる場所をただひたすら塗り続け、根を詰めて何度か寝込んでしまったほどです。
でも塗り重ねていくごとに、わたしたちの巣に対する愛着も深まっていったような気がします。

たくさんの方にお世話になり関わっていただいて、一年以上もの仮住まい生活を終え、先月からようやく新しい暮らしがはじまりました。
少しずつ落ち着きをとり戻しながら、器はできたけれど、本当の意味での巣づくりはこれからなのだろうと思っています。


染めることと織ることは、本来は暮らしのなかにあり、そこにも惹かれて選んだ仕事でした。
頭ではわかっているのに、20、30代はバリバリ仕事をすることに重きをおいて、切り離した「暮らし」というものをどこか置き去りにしていました。(それはそれで必要な時間だったとも思っているのですが…)
けれども子どもが生まれ、八ヶ岳山麓に拠点を移して、と環境が変わったことで、逆に暮らしと仕事をきっちり分けることのほうが難しくなりました。
いろんなことが一緒くたになってしまう日常なのに、わたし自身は以前よりも明快に動けるから不思議です。
待ったなしの状況から生み出される、その人なりの暮らしの知恵や工夫、システムやリズムは「生きていく」ということとしっかり結びついているからかもしれません。

じつは、わたしたちのまえにすでに入居者がいたのです。
玄関の軒下にツバメがせっせと巣をつくり、ヒナを生み育て、先日みんな旅立っていきました。
よろこばしいのに淋しくて、巣立ちを見届けるとはこういうことなのか…
なんて思いながら、わたしもこれからこの場所で、子どもを育て、作品を巣立せていくための暮ら巣をつくっていきたいと思います。

2015年7月24日 | Posted in 綴る |