未晒しの白い絹糸は、そのままでも存在感があって美しい。
絹糸は、蚕が蛹になる過程で自らを包むためにつくった繭から糸を繰ったものだ。
繭を鍋の中で煮る。蚕が繭をつくっていくのを巻き戻すように、糸口からするするっと空気中に引き出された繊維は、みるみるうちに光の筋のような糸となっていく。
そうして俵のような繭の形が失われたとき、蛹化していた蚕の亡骸が湯の中に浮かぶ。
その光景を思い出すたびに、きゅっと胸がしめつけられる。
命を感じずにはいられない白い絹糸にふれると、わたしの手で汚してしまうのではないかと怖くもなる。
染めようとするたび、この糸をちゃんと生かさなくてはと姿勢を正す。
そんな力のある白い絹糸は、わたしが原点に立ち返るはじまりの色である。
30代後半から40代にはいり、環境や心境がいろいろと変わりました。
心境については、このブログに書かせていただいたり、作品に反映させていければと思います。
変わった出来事としては、再婚し出産したこと。
育児のために数年間仕事を休んだこと。
現姓名の「藤井繭子」で仕事を再開したこと。
長らく拠点としていた鎌倉から八ヶ岳南麓に移ったこと。
でも変わらないこともあって、冒頭に書いた白い絹糸にふれたときの緊張感や、織っていると心身が整えられていくこと、そして織りあがったものを人に着ていただけるよろこび。
これからも変わっていくことと変わらないこと。
その両者も感じ、向き合いながら、丁寧に歩み進めてまいります。
2014年7月31日 | Posted in 綴る |