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京都へ

台風が接近しているという日曜日の早朝、京都へ向かいました。
師匠である志村ふくみ先生の卒寿のお祝い会に出席するためです。

事前に予約していたタクシーに、寝ぼけている2歳の娘と乗りこみ、まずは最寄りの駅へ。
まだ台風の影響はないものの秋雨前線も近づき、雨が降り、薄暗く霧がかかる山麓。
そんな車窓からの風景を眺めながら、無事に京都まで辿り着けるだろうか……と不安も同行していました。

ちょうど2年まえには米寿のお祝い会があり、そのときは直前に娘が熱を出したため、キャンセルしたという苦い思い出があります。
今度こそちゃんとお祝いしたいと、娘はもちろんわたしの健康管理と準備を念入りに整えてきました。
それなのに台風が近づいているとは……しかし電車が止まらないかぎり西へ向かおう!と覚悟を決めたのでした。

娘にはお留守番をしててもらうという選択肢もあったのですが、それでも連れて行こうと思ったのは、わたしの希望でした。
わたしが20年近くまえに、志村ふくみ先生とふくみ先生の長女である洋子先生の京都の工房で学んだことや感じたことは、今のわたしの根幹になっています。
そのときのことを何らかの方法で娘にも伝えていきたいと思っています。
でもそれは「織物はたて糸とよこ糸があってね…」といった染織の技術のことではなくて、精神や感覚のことだったりするので、適切な言葉を見つけるが難しく、どのように伝えたらいいのか悩ましいのです。
それならば、工房の空気を感じてもらうのも、ひとつの手段ではないかと思ったのです。


京都に着いてみると、曇ってはいたものの台風の気配を感じない穏やかな天気と観光客のにぎわいに、全身レインウェアを身に纏っていたわたしは、拍子抜けしてしまいました。

さらに、とてもお元気な先生方やみなさんに会えたら、懐かしくてホッとしました。
でもそれと同時に「わたしたちは自然から恩恵を受けていることを自覚しなくてはいけない」とやわらかい口調で話されるふくみ先生の真摯で、謙虚で、90歳になられても尚高まっていく情熱や使命感に、わたしの背筋がピーンと伸びました。
こういう緊張は、気持ちがいいものですね。
安堵と緊張が、たて糸とよこ糸のように交差する京都は特別な場所です。

そして、幸せな時間はあっという間に過ぎ、台風に追いかけられながら、家路を急いだのでした。
この日のことを覚えているかはわかりませんが、いつかあらためて娘と話したいと思います。

2014年10月21日 | Posted in 綴る |