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きものと湯たんぽ


もう何年もまえになりますが、師走のころ友人宅に泊まったとき、友人が布団のなかに湯たんぽをそっとしのばせておいてくれました。
なにも知らなかったわたしは、布団に入りひんやりするのを覚悟していたので、一瞬にして緊張がほぐれる温かさと友人のさりげない心遣いに甚く感動しました。
自宅にもどるとわたしも湯たんぽデビューし、それから毎冬お世話になっています。
眠っているときに冷えを感じるのはやはり嫌なものです。
かといって暖房器具をつけっぱなしというのは気が引けますし、しかも室内が乾燥するのもつらい。
また電気毛布などの電気系を身近に置くのは苦手、というわたしには湯たんぽは最適です。
告白してしまうと、今年は11月初旬からもうすでに湯たんぽを使いはじめていて、わたしの眠りにはなくてはならない相棒です。

八ヶ岳山麓暮らしの先輩たちに、冬の過ごしかたを伝授していただきました。
「わたしはとにかく引きこもる!」と明快に答えた方もいれば、「この寒さは春を迎えるよろこびのためにある」とちょっと深い話を聴かせてくださった方もいます。
そのなかで「湯たんぽカバーを手作りして楽しむ」と教えてくださいました。
湯をわかして湯たんぽの中に熱湯を注ぎ、お気に入りのカバーでくるみ、就寝する少しまえに布団の中に入れておく。
そうすれば、温もりに包まれながら一日を終えることができます。
たしかにこのひと手間は、寒い冬ならではの楽しみかもしれません。


話はかわって、先日友人の結婚式があり2年半ぶりにきものを着ました。
2年半まえというのは子どものお宮参りのときなのですが、きものを着たという記憶がほとんどないのです。
そのときの写真を見て、生まれてまだ間もない子どもに精一杯で、自分の着るものなど考える余裕がなかったなぁということが思い出されました。
それから2年半が経ち「大切な友人のお祝いの場にきものを着ていきたい」という気持ちがわき上がったことに、自分でも嬉しくなりました。
そういう思いからはじまったこともあって、箪笥からきものを包んだたとう紙を出して着付け、きものを着ての所作、そして着終わった後の片付けまで、すべてを味わうことができました。
これまでは「きものは好きだけれど大変」というのが気持ちのどこかであったのです。
今はその大変さも含めて、きものを着ることにまつわる時間が愛おしく思えます。

ふと、きものと湯たんぽは、なんだか似ていると思いました。
スイッチのオンオフで切り替えられるものとは違う、準備から片付けまでつながる時間と所作があるからこそ得られる温もりです。
反物を織る者として、湯たんぽで温められた布団に入った瞬間に得られる安らぎを、きものを纏ったときにも感じれるようなきものをお届けしたい。
そんなことを思った、湯たんぽの仄かな温もりのなかで目覚めた冬の朝でした。

2014年12月10日 | Posted in 綴る |