滲ませた墨絵のような霧の光景も見慣れました。
とくにしっとりと雨が続くこの時期の山麓では、雨と霧は組みになっています。
また、霧のときは静寂を伴います。
どことなくまわりの人も声をひそめたり、すこしだけ寡黙になるような気がします。
ひとり想いに耽る、そんな時間もぴったりです。
ふと、以前に読んだ短編小説・ジュンパ・ラヒリ著『停電の夜に』(新潮社)を思いだしました。
夜の一時間だけ停電になる五日間。ろうそくの灯りだけという非日常的な空間のなかで、夫婦それぞれが隠しごとを打ち明けていく、という(わたしはできるだけそういう状況は避けたいと思う)お話です。
いつも目に映っているものを、霧はやわらかく包み隠してしまいます。
ちょっとくらい秘めたものがあってもいい…なんて、たわいないことを考えているうちに、霧ははれて雨もあがり、あたりは明るくなっているのでした。
2016年6月23日 | Posted in 綴る |