七月の終わりに、福島県奥会津にある昭和村を訪ねてきました。
そこは「からむし織の里」と呼ばれ、ちょうど七月の土用頃から八月のお盆前におこなわれる、からむしの「刈り取り」「皮はぎ」、そして「苧引き(おひき)」の作業を見せていただきました。
からむしはイラクサ科の植物で、別名苧麻や青苧ともいいます。
600年以上も前から、昭和村ではからむしが栽培されてきました。
新潟の小千谷縮や越後上布の原料となるの麻糸も、昭和村のからむしが用いられています。
今回、案内してくださった舟木由貴子さんと作業場を見せてくださった渡辺悦子さん。
二人とも昭和村の出身ではなく、からむし織に魅せられてこの地へやって来ました。
そして、からむし織の修行を終えたあとも村に暮らし、からむし織を残していくこと、伝えていくことに取り組んでいます。
まずは、からむしの刈り取りをしている場所に連れて行っていただきました。
これは男性の仕事だそうで、作業をしていたのは悦子さんのご主人の渡辺文弘さんです。
まっすぐ空に向かって伸びたからむしを、渡辺さんが一人で黙々と刈っていきます。
多年草であるからむしは、刈ったあとに新しい芽をだします。
また翌年に伸びたからむしを刈って芽が出て……と繰り返されるなかで、人が土を踏みかためて根を痛めないよう、刈る人以外は聖域である畑に立ち入りません。
こうして上質なからむしが大切に守り継がれています。
刈ったからむしは茎だけを残し、決められた尺に切り揃えます。
それを清水にひと晩浸して、茎の皮を2枚に剥いでいきます。
ここまでが男性(家族内の分担として、基本的には夫)の仕事です。
そしてここから女性(妻)へとバトンが渡されるのです。
サッーサッーと小気味よい音が響き、作業場に漂う青草の香りは、鼻腔から脳へと爽快な風を届けてくれました。
苧引き板の上で、苧引き具(おひきご)という鉄製の刃がついたへらで草の表皮を削いでいきます。
すると、ほんのり草色をした繊維が顔を出し、真珠のような光沢を放ちます。
その美しい輝きのことを、昭和村の人たちは愛情と誇りをもって「キラ」と呼んでいるそうです。
夏の作業を終えると秋には糸づくりの苧績み(おうみ)、そして機織りへと続いていきます。
また二十四節気の一つである五月の小満には、藁などをからむし畑に敷いて燃やす「焼き畑(やきはた)」を行います。
からむしの発芽を揃えて病害虫の発生を抑える、大切な作業のひとつだそうです。
昭和村では、さまざまなことが繋がっています。
それは、どれも欠かせない季節ごとの作業の循環や、いにしえから受け継がれてきた伝統的な手法もあります。
また家族で分担する作業は男性から女性へ、親から子へ引き継がれます。
このようにして生まれるからむし織は、布となってからも草であった面影を残して涼しげなのに、力強さがあるのです。
由貴子さんと悦子さんは、からむし織を反物や帯だけでなく、別の形で私たちに届ける方法も考えていらっしゃいます。
以前にある茶会で、バーナード・リーチの茶器にからむし織の帛紗を組み合わせたそうです。
「バーナード・リーチの茶器に負けないくらいの存在感があると思いました」
と目を輝かせて語っていた由貴子さんの顔が頼もしく、とても印象に残っています。