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藍色がある

わたしが染めるもの、織るものには、藍色がありません。
独立してから藍に出合うことが、ほとんどなかったのです。
だからといって、とくに働きかけることもなく無い色としてやってきたのですが、八ヶ岳山麓にアトリエを移し、壁一面に棚をつくったとき、なぜか中央に青系の色糸を納められるよう配置していました。
偶然ではあったものの、そこには臭木の実で染めた水色のみで、がらんとした棚を目にするたびに「藍で染めたい、藍色の糸で織りたい」と欲する気持ちは日に日に強くなっていきました。
今思うと、気づかないふりをしていた願望を駆り立てるためだったのかもしれません。

『日本の藍―染織の美と伝統』(日本藍染文化協会編/1994/NHK出版 )という本を持っているわたしは、そのなかで紹介されている天然藍を建てて工房を営む作家が同じ町内にいることを、こちらに移住したときから知っていました。
けれども、やはり時機というのがあるのでしょう。
その藍染め作家と縁のある友人に導かれて、つい先日ようやく門を叩きました。
そして「糸を染めさせていただきたい」というわたしの申し出を快諾してくださり、これから通うことができそうです。
しかも藍染め作家が「試してみたら」と、持参した見本の絹糸でさっそく染めさせてくださいました

甕がいくつもある工房で、久しぶりに藍を目にし、特有の匂いを嗅ぎました。
藍が建っている甕の中に手を入れると、とろっとした肌触りとぬくもりに、20年まえに修業先で染めていた頃の感覚が瞬く間に呼び戻されました。
糸を藍甕からとり出し、水洗いして現れた澄んだ青―これからは藍色がある!
その糸で織れるのだと思うと、ああ胸が高鳴ります。

 
2017年5月25日 | Posted in 綴る |